flavorsour 第五章

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この生活が始まった経緯と今まで暮らして来た中で受け取った榛名さんの優しさや頼もしさ、その行動全ては蓮に繋がっているのだと自覚すると瞬く間に気持ちは落ちて行った。 この人が本当に好きなのは蓮であって私ではない。私に優しくするのは蓮にいいように思われたいとかそういった思惑があってのこと。 (期待なんかしたらダメ) 一緒に暮らしてみてそれがあまりにも楽しくて、居心地が好過ぎたせいでとんでもない思い違いをするところだった。 だけど、正直自惚れるなと思う方が辛い。 私の気持ちは嶋さんに告げた通りのものになっていた。それを今更なかったことにしなければいけないと思うととんでもない喪失感が去来した。 「──蘭ちゃん」 「……」 「蘭ちゃん」 「っ、はい!」 呆けていた頭に榛名さんの声が届き思わず体をしならせてしまった。 「もう眠い? そろそろお開きにしようか」 どうやら榛名さんには考え事をしていた私が眠気を覚えてボーッとしていたように見えたようだ。 (だけど頭を冷やすには丁度いいかな) そして気が付けば「そうですね……少し眠いかも」と答えていた。 「そっか、じゃあまた明日ね。おやすみ」 「はい……おやすみなさい」 榛名さんはいつも通り優しげな表情を浮かべながら就寝の挨拶をしてそのまま自室へと消えて行った。 その後姿が見えなくなるまで見送った私はしばらくソファから立ち上がることが出来なかった。 (はぁ……噓、ついちゃった) まだ全然眠くない。というか色々考え過ぎてかえって目が冴えている。 (もうちょっと一緒にゲーム、したかったな) 手元の携帯を眺めながらそんなことを思い、そしてやけに重たいため息を吐いたのだった。
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