flavorsour 第五章

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もちろん表情にそんな焦りはおくびにも出さずに落ち着いて続けた。 「それでね、あたしは──」 「ごめんなさい、笹本さん。待ち合わせ時間が迫っているのでそのお話の続きはまた今度聞かせてもらえますか?」 「あ──あぁ、そうだよね。伊志嶺さんが急いでいるんだもん、よほどのことだよね。こっちこそごめんね、引き留めちゃって」 「いいえ。じゃあまた週明けに」 「うん、バイバイ」 笹本さんには『また今度聞かせてください』という言葉が効く。今は時間が無くて聞けないけれど時間がある時なら聞きますという意志表示であっさりと解放してくれる。 (まぁ、その代わり後日ちゃんと話を聞かないといけないんだけれど) それでも今、この時を解放してくれるのなら後からきちんと話は聞こうと思った。 (はぁ……よかった。時間、そんなに押していなかった) 駅に向かう道すがら何度も携帯で時間を確認して笹本さんと話していた時間は予定が大幅に狂うほどのものではなかったことに安堵した。 遅刻だけは絶対にしたくない──その一心で自然と足取りが忙しくなる。 やがて辿り着いた最寄り駅。改札口横の切符売り場で目的地までの切符を買おうと脚を向けた時、突然後ろから肩を叩かれた。
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