flavorsour 第五章

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「俺から離れないで」 「は、離れ……?」 「特に電車内では俺に寄り添うこと」 「!?」 (な、ななな、何故──?!) よく分からないうちに既に榛名さんが買っていたらしい目的駅までの切符を渡された。 「あの、切符代を──」 「そんなことは気にしないで今は俺から離れないことを気にして」 そう言われては握られた手を放すことも出来ず、結局そのまま榛名さんと共に改札口を通り抜けた。 訳が分からないままやって来た電車に榛名さんと共に乗車した。榛名さんが言っていたように電車内は雑多な人で混んでいた。 (この時間の電車ってこんなに混んでいるんだ) バス通勤だからよく知らなかったけれどそういうものかと思っていると不意に後ろで違和感を覚えた。 (……?) 少し顔をずらして後ろを見るとスーツ姿の背の高い男性が立っていた。その人の顔は私の頭より上にあったから表情はよく分からなかったけれど、何故か先刻からお尻辺りに固いものが当たっている気がした。 (なんだろう……鞄の角でも当たっているのかな) そんなことを考えていると突然隣にいた榛名さんが私とその男性の間に割り込んだ。 「っ!」 その拍子に私の体はドア付近の角に押しやられそのまま榛名さんに後ろから抱きしめられるような格好になってしまった。 「あ、あの……」 「しっ」 「!」 顔の見えなくなった榛名さんの妙に圧のかかったひと言に何も言えなくなってしまった。
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