flavorsour 第五章

20/38
前へ
/402ページ
次へ
(何なの、この状況は……) 駅に停まる毎に乗客の数は増えて行き、ほんの少し余裕のあった空間も今は隙間がないほどになっていた。 電車が揺れる度に榛名さんと接触している処が押されたり、不意に香る榛名さんの匂いにドキドキした。 (こ、これは……もはやご褒美なのか拷問なのかどっち~~~) 嬉しいという気持ちの中にこの密着度は心臓に悪いとひとり盛大に悶絶していた。でも不思議と榛名さんが後ろにいることでこの空間は安心出来る場所になっていた。 自然と【守られている】という感情が湧いていた。 (ちょっと……いや、かなり恥ずかしいけれど……) そう思った瞬間、首筋に温もりが灯った気がした。 (え?!) それに気が付き後ろにいるはずの榛名さんに顔を向けようと身動ぐと「……見ちゃダメ」と榛名さんが小さく呟いた。焦った私はすぐに顔を前に向けてそのまま項垂れた。 (い、い、今のって……) もしかして首筋にキス、されたのだろうか──なんて一瞬思ったけれど…… (それはない……かな) きっと振動で誤って触れてしまったのだろう。そしてそれを恥ずかしく思った榛名さんは『見ちゃダメ』と言った。 (そう……それだけのこと) 榛名さんが誰を好きなのかを知っているからこそ変に自惚れないようにしようと強く思った。
/402ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1812人が本棚に入れています
本棚に追加