flavorsour 第五章

21/38
前へ
/402ページ
次へ
そんなちょっとした波乱めいた時間が数十分過ぎた頃、アナウンスが目的の駅名を告げた。 (やっと次で降りられる!) 自然とホッとした気持ちになったのは羞恥と焦燥感からか。でもその一方で、もう少しこのまま──という気持ちもあった。そう思ってしまうほどに榛名さんの傍にいられる安心感がとって心地がよかったから。 (……だけどごめんなさい、蓮じゃなくて) 榛名さんのことを思うとどうしても申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 やがて停車した電車から榛名さん共々降りた。何十分かぶりの外の空気に晒され火照っていた体がすぅっと冷えたような気がした。 「すごい人混みだったね」 スーツの上着を直しながら榛名さんが話しかけて来た。 「えぇ……想像以上に混んでいて驚きました」 「よかったよ、蘭ちゃんがバス通勤で」 「? まぁ、バスはあれほど混みませんから助かっていますけれど」 「──本当、予想していた通り下衆な人間もいたし。絶対電車通勤なんかさせらんない」 「え? なんて言いました?」 急に音量が下がった言葉が聞き取れなくて聞き返したけれど榛名さんは「なんでもないよ」とにっこりと笑った。 (何か言ったと思ったんだけど……) 私に向けて言ったのでなければしつこく聞くこともないだろうと思いそのままスルーした。
/402ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1812人が本棚に入れています
本棚に追加