flavorsour 第五章

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他愛のない話をしながら榛名さん先導でやって来たのは駅から5分ほど歩いた先にあったお店だった。 「……素敵なお店」 お店の外観を見て思わず声に出てしまいハッとした。そんな私に榛名さんは「内装や料理も気に入ってくれるといいんだけど」なんて言いながら微笑んだ。 こういう場面で返す言葉から榛名さんがこういうことに慣れている感が窺えて少し胸の奥がチクッとした。 (多分、今までにこうやって女の人と出かけることが多かったんだろうな) 榛名さんの恋愛対象は女性ではないと分かっていても、どうしても気持ちが落ちてしまいそうになる。 (あぁ……もう!) 幾度となく考えて悩んで、それでもいい──そこに付け込んで一緒にいるのだと割り切っていたのにちょっとしたことでそれが崩れそうになるのが嫌だった。 (もう何も考えない!) 今はただ榛名さんとの疑似的な食事デートに集中しようと気持ちを入れ替えた。 お店のドアを開けるとすぐにスタッフらしき女性が現れた。 「いらっしゃいませ」 「19時に予約していた榛名です」 「榛名様、ご来店ありがとうございます」 スタッフの女性は丁寧に頭を下げながら店の奥へと案内した。 (カウンター席はあるのにテーブル席がない) 案内されながら店内をきょろきょろしていると不意に視線を感じた。 なんだろうと気になった方を見ると其処には料理人の格好をした男性が立っていて私と目が合うとにっこりと笑いながら頭を下げた。 つられて私も頭を下げていると「蘭ちゃん」と名前を呼ばれた。
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