flavorsour 第五章

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榛名さんが「どうしたの、迷子になっちゃうよ」と言いながら近づき私が見ていた方に視線を移すと小さく「あ」と呟いた。 榛名さんとも目が合った男性は私の時と同様にっこりと笑って頭を下げ、そして奥の厨房らしき処に入って行った。 「料理人さんですかね。すごく雰囲気のいい人ですね」 「──だね」 「?」 私の言葉に榛名さんは静かにそれだけをいうと「ほら、こっちだよ」と私の手を掴んで歩き出した。 (また…!) 流れるように簡単に繋がれてしまった掌がジワっと熱を持った。 (まさか……子ども扱い?!) 先ほど出た『迷子』というワードと絡まってそんな風に思ってしまったけれど(そう思わないと益々浮かれてしまう!)と心の中でひとりボケツッコミを繰り返していた。 案内されたのは個室のひとつ。こじんまりとした空間でありながらも思わず長居したくなるような雰囲気を醸し出していた。 中央に置かれたテーブルを挟んで私たちは向かい合って座った。案内してくれたスタッフの女性が「ご注文がお決まりでしたら其方のベルを鳴らしてください」と言い残して個室から出て行った。 それを見計らって私は榛名さんに訊ねた。 「このお店って全室個室なんですか?」 「そうみたいだね。カウンター席の他は4つの個室があるだけみたい。だから完全予約制なんだって」 「そうなんですか」 (こういうお店、落ち着くかも)
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