flavorsour 第五章

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やがて個室のドアが叩かれ『失礼します』と聞こえた。見慣れたスタッフの女性がドアを開けワゴンに乗ったお盆をテーブルに配膳した。 「此方お品書きになっています」 そう言いながら和紙に手書きされたお品書きをお盆横に置いた。 「美味しそう」 思わず零れたひとり言に女性が「ありがとうございます」とにっこりと笑った。 (本当、雰囲気のいいお店だな) お店の雰囲気も料理もスタッフさんも、見る限り全てが私好みのものだった。 配膳を終えた女性がいなくなってから榛名さんに訊ねた。 「榛名さん、素敵なお店を知っているんですね」 「気に入ってくれた?」 「はい。すごく雰囲気のいいお店で大好きになりそうです」 「それはよかった」 榛名さんはにこにこしながら答えたけれど内心私は別のことも訊きたいと思っていた。 (このお店……前にも誰かと来たことがあるのかな) 榛名さんがどうやってこのお店を知って私を連れて来てくれたのか──そんなどうでもいいことを知りたいと思ってしまった。 如何にも女性受けしそうなお店なだけにもしかして前にも来たことがあるんじゃないかと変に勘繰ってしまう。 (って、別に榛名さんが誰とこのお店に来ようと私には関係ないじゃない) 変な方向に思考が走りそうになったのを必死に打ち消そうとした。
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