flavorsour 第五章

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「しかし邦幸が初めて連れて来た女性がこんなに綺麗な人だとは思わなかった」 戸村さんの言葉にドキッとした。 (え……今のって……) 戸村さんの言葉の続きが訊きたくてあえて『綺麗な人』の部分を否定したい気持ちを抑えた。 「店がオープンしたら彼女連れて来るって言うから待っていたのに。ようやく来たと思ったらひとりだったから拍子抜けした」 「ちょ、それいつの話だよ。そういうこと、話さなくていいから!」 「あ──そうだな、悪い。もう何年も前の話を蒸し返すことないよな」 「そうだよ。全く相変わらずデリカシーに欠ける男だよ、創史は」 「おまえだけには言われたくないな」 (……なんだか……こんがらがって来た) 榛名さんと戸村さんの会話にはよく分からない部分があって中々理解し難いものだった。 数年前にオープンしたこのお店に榛名さんは彼女と来ようとしていた。彼女──つまり女性。 どれくらい前なのか分からないけれど榛名さんは女性と付き合っていたということだ。おそらく彼女というくらいだから単なる女友だちとは違うだろう。 (友だちだったらあえて彼女とはいわない……よね?) ということは榛名さんの場合、仮に女友だちだったとしても周りに同性愛者だとカミングアウトしていなかったら何らかの事情で仲のいい女友だちを彼女と偽っていたかもしれない。
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