flavorsour 第五章

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つまり戸村さんは榛名さんが同性愛者だとは知らない──という結論に達したのだけれど…… (でも……榛名さん、モテるだろうから) きっと周りの女性は放っておかないだろう。一緒に住んでいるうちにそういうことが分かって来たから榛名さんが本命(今なら蓮)以外の異性にはとても優しく接しているのだろうと安易に想像がついた。 (だから私も──) 「蘭ちゃん?」 「っ!」 突然大きな手が目の前でヒラヒラしているのが見えた。 「大丈夫? お腹でも痛い?」 「──あ……いえ、痛くないです」 考え事をして呆けていた私に榛名さんは心配そうに訊ねた。 「知らない話をされていたら退屈ですよね」 戸村さんが申し訳なさそうにそう言ったけれど変に誤解されたくなくて今度こそ否定の言葉を口に出した。 「退屈だと思っていませんから気にしないでください」 「そうですか? ならよかったです。少し挨拶しようと思っただけなのに長居してしまってすみませんでした」 「いいえ。デザート、いただきます」 「はい。──邦幸、邪魔して悪かった」 「余計なこと喋り過ぎだから。サッサと仕事に戻りなさいよ」 「あぁ。じゃあな」 私に対しては丁寧な言葉使いで応えた戸村さんは榛名さんに向かって軽く手を挙げて個室から出て行った。
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