flavorsour 第五章

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榛名さんとふたりになってしばらく沈黙が降りた。少し気まずくなった空間に先刻までの居心地のいい雰囲気が薄れたと思っていると榛名さんがスプーンを手に取りながら口を開いた。 「なんかごめんね」 「え」 「気を悪くしないで欲しいんだ」 「気を悪くって……戸村さんのこと、ですか?」 「うん。なんか聞かれて欲しくないことまで喋ったからさ」 「……それって」 「あいつが言った彼女って、もう随分前に付き合っていてとっくに別れている子だから」 「……」 (あれ? 本当に彼女だったの?) 榛名さんから告げられた言葉が心に案外深くまで突き刺さった。それと同時に(どうして)という嫌な疑問も湧いた。 (同性愛者なのにどうして女の子と付き合えるの?) 周りを誤魔化すためとか事情があって仕方がなくとか、何かしらの理由があって付き合っていたという答えを望んだけれど、榛名さんは私の望んだ答えをくれなかった。 「俺、なんか長続きしないんだよね、女の子と付き合っても」 「……」 「結構真面目に付き合っているんだけどさ、なんかダメみたいで」 「……」 それは恋愛対象が同性だからじゃないんですか──と言いたかった。 榛名さんは異性と付き合っていたことを否定しなかった。寧ろ付き合いが上手く行かなかったことに心を痛めている様子だ。 (どうしてそんなに悲しそうな顔をするの?) 同性愛者なのに異性と付き合ったりするから傷つくのではないのか。
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