flavorsour 第五章

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「蘭ちゃん?」 「あの、割り勘にしませんか」 「え」 「榛名さんに出してもらう理由がないので」 「……」 こういう時、他の人だったら嬉しがって「ありがとう」とか言うのだろうか。でも私は出来ない。特に理由のない食事で奢ってもらうという気持ちにはなれない。 「いくらでしたか?」 「要らないよ」 「でも」 「デートなんだから俺が払いたいの」 「……え」 「何、蘭ちゃんはデートでは割り勘主義なの?」 「それ、は……」 一瞬答えに詰まった。だってまさかこれがデートと呼称していい外食だとは思いもしなかったのだから。 訊いてみてもいいのだろうか。これってデートだったんですか? と、私から訊き返してもいいのだろうか。 既に榛名さんが『デート』だと言っているのだからいちいち確認しなくてもいいとは思うのだけれど…… (だけどデートってただの同居人とでもするものなの?) つまりはそこら辺の関係を曖昧にしたくない感じでいるのだ、今は。 (……よ、よし。勇気を出して──) そう思い口を開けようとした時、突然目の前にカラフルなものが差し出された。 「へっ」 思わず驚いた私は開けた口から変な声が出てしまった。 「はい、どうぞ」 「こ、これは」 「前に約束していたでしょ? ブーゲンビリアの代わりにあげるって」 「え……でもそれは鉢植えでは……」 そう、目の前に出されたのは鉢植えではなく可愛らしい小さなブーケだった。
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