flavorsour 第五章

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そうして改めて榛名さんからプレゼントされたブーケをしげしげと眺める。大きな花弁に真ん中の芯黒──花の色は白と赤と紫の三色。 「この花……もしかしてアネモネ、ですか?」 「え、分かるの?」 「はい。友人の結婚式の時に花嫁が持つブーケがこの花と一緒で──」 そこまで話して私はハッとした。 (そういえばこの花……) 何かを思い出しそうになったその時、榛名さんが「そろそろ行こうか」と席を立った。 「え……あ、はい」 榛名さんにしては珍しく最後まで話を訊かずに遮ったタイミングに驚いたけれどそのまま促され私も席を立ち個室を出た。 この時点で私の頭の中から割り勘という言葉が消え去ってしまっていた。 少し先を歩いていた榛名さんはお店のドア付近にいた女性スタッフに声をかけていた。 「瑠美さん、ご馳走様でした。すっごく美味しかったよ」 「ありがとうございます」 話しかけられていた女性は先刻話に出ていた榛名さんの友だちの戸村さんの奥さんの瑠美さんだった。にこやかに対応する彼女に私も声をかけた。 「あの、お料理どれも美味しかったです。ご馳走様でした」 「ありがとうございます。気に入っていただけたら嬉しいです」 「はい、お料理もですけどデザートもとても美味しかったです」 「そうですか、それはよかったです」 私に対しても変わらずにこやかな笑顔を見せてくれる彼女につられて私も笑顔になった。
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