flavorsour 第五章

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「ど、どうしたんですか?」 戸惑いながらも辛うじて出た言葉。榛名さんは柔らかな表情を浮かべながら私の顔をしばらく見つめていたけれど不意に真顔になった。 「あのさ、話したいことがあるんだよね」 「!」 静かな口調で放たれたそれに一瞬で全身に緊張が走った。 「家に帰ったら俺に時間、くれるかな?」 「あ……は、はい」 「ありがとう」 たどたどしく応えた私に榛名さんはまた柔和な顔つきに戻った。 (話ってなんだろう……) 先刻は私が榛名さんに色々訊きたいことがあると思った。もしかしたらそれらに繋がる話をされるのかと思ったけれど…… (まさか……同居を解消したいとかって方向の話だったらどうしよう) 今日みたいな特別な出来事があると私は大抵嬉しいことが始まる前か、楽しかったことを終わりにするためのことか、その二択のどちらかに繋がることだと思ってしまう。 だっていつもの日常とは違うことをされれば色々想像してしまうものではないか。 現に以前少しだけ付き合っていた彼とも話があるからといって呼び出されたのはいつもは行かないようなお洒落なお店だった。 (あ~~~嫌なこと思い出しちゃった) すっかり忘れ去っていたと思っていた不甲斐ない思い出だけれど、こんなちょっとしたことでまだ思い出されるのかとため息が出てしまった。
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