flavorsour 第六章

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しかしだからといって自分の気持ちを彼女に伝えることは相当覚悟のいることだった。もちろん肝心のことを言わなくてもいいのなら話は簡単だろう。 『俺が本当に好きなのは君だよ』──ただそう伝えれば全ては上手く行くような気がする。 だけど俺は彼女に対して何ひとつ嘘をつきたくない。彼女に何ひとつ隠し事をしたくはないのだ。 それは即ち──俺の能力のことを包み隠さず話さなければいけないということ。 (だけど……なぁ) 過去の苦い経験から素直に告白することが憚れる。全てを話してその結果彼女から否定、拒否、罵倒などされようものなら…… (もう……立ち直れないかもしれない) いや、もしかしたら【死にたい】なんて思いに駆られるかもしれない。 それほどまでに俺は彼女のことが──伊志嶺蘭のことを深く愛してしまっていた。 勇気を出して食事に誘った時から全てを告白すると決めていた。彼女に真実を話すための前哨戦的な意味で弾みをつけたかった。 ただし行く店には気を遣った。本当は彼女を誰にも見せたくない気持ちでいっぱいだった。ただでさえ彼女は人目を惹く容姿だから。 (現に満員電車に乗ったら乗ったで早速痴漢野郎に遭遇したし) 後になって電車に乗らずにタクシーを使えばよかったと激しく後悔した。俺が傍にいれば大抵のことから守ってやれると当たり前のように思っていた自分自身に腹が立った。 せめてもの救いは彼女が痴漢に遭ったと気が付いていなかったことだ。 もし仮に彼女に不快感、喪失感、嫌悪感を与えていたならどんな手を使ってでもあの痴漢野郎を破滅させていたところだ。 とはいえ彼女に働いた下衆な行為には腹が立ったので使いたくもなかった能力で知った個人情報を活用してそれなりの報復をしようかと思っている。
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