flavorsour 第六章

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(と、そんな些末なことはおいといて) 彼女を連れて行く店の条件として絶対譲れないのは個室があることだ。他の客の目──特に男の目に彼女の食事する姿を晒すことが嫌だった。 傲慢且つ我がままな感情だが融通が利くならなるべくそれを適えたかった。 そこで思い出したのが創史だった。高校の時に知り合った一番仲のいい友人の戸村創史。 創史は俺の能力を知っても『覗かれても困ることは考えていない』なんて言って友人関係を続けてくれた唯一の存在だった。 だからといって創史の心の声は伊志嶺兄妹と違って本音と同じというわけではなかった。口に出す言葉と本音はズレていた。 でもそのズレは口に出す言葉が毒舌且つ辛辣だった故、本音は柔らかく労わりをもった優しいものだった。 吐き出される言葉と本音が普通とは逆という特殊な創史に俺は随分救われた。 そんな創史が学生時代から目指していた自分の店を持つという夢を叶えた時に連絡をもらって近い内に彼女と行くよと答えていた。 その時付き合っていたのは美咲、だった。 しかし創史に会わせてもいいと思い一緒に店に連れて行く前に美咲とは別れていた。 (あー……嫌なことを思い出した) 先刻、彼女が今の俺と同じように元カレのことを思い出していたのが不快だった。しかし俺自身も同じようなことをしたと分かると不快に思ったことを申し訳なかったと心の中でそっと謝った。
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