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(はぁぁぁぁ……気が重い)
自宅が近づくにつれてどんどん緊張感が高まって行った。食事中や帰宅の途にある間中、考えが二転三転しながらも結局決めたのは彼女には全てを話す──だった。
嫌われたくないがために肝心な真実を秘密にしたままでは彼女とは一緒にいられない。だからといって全てを話して嫌われたらそれはそれで大ダメージを受けるだろうが……やっぱり最終的には彼女には嘘をつきたくない──という気持ちが勝ったのだった。
「あの、榛名さん」
「!」
不意に袖口を引っ張られハッとした。考え事をし過ぎて周りがよく見えていなかった。
「どうしてダメなんですか?」
「え……ダメ?」
「……」
俺の袖口を持ったまま彼女はジッと俺の顔を見つめた。
(拙い……考え事のし過ぎで何を話していたのか訊いていなかった)
帰りは駅からタクシーに乗った。帰りの電車も帰宅ラッシュにぶつかりそうだったから彼女を不逞な輩から守る意味でもタクシーにした。
タクシーの中でポツポツと他愛のない話をしているうちに自宅マンション前に着いた。料金を支払いタクシーを降りた時も俺の頭の中は彼女に話す内容ばかりに気を取られていた。
そのすぐ後に彼女に袖口を引っ張られた。どうして今、こういう状況になっているのか全く分からない俺は困惑して何も言えなかった。
そんな俺に何を思ったのか、彼女は黙って鞄を漁って財布を取り出した。
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