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「榛名さん、今度こそ私に払わせてください」
「……え」
「タクシー代。榛名さんはダメだと言いましたが食事をご馳走になってその上タクシー代まで払ってもらうなんて私は嫌です」
「……」
彼女が親切に状況説明をしてくれたおかげでこの現状を把握出来た。
(あぁ……無意識に言っていたのか、俺)
タクシー代を払う時、彼女が何か言ったような気がしたが他事を考えている中では彼女との会話をすっかり御座形にしてしまったようだ。
(俺としたことが)
彼女のことを考えているのに彼女の言葉を訊き流すなんて本末転倒な気がする。
「はい、受け取ってください」
「……うん、ありがとう」
ちょっとした罪悪感から今回は彼女の厚意を受け流すことが出来ず、差し出されたタクシー代を受け取った。すると彼女は柔らかく微笑んだ。
(あ……その顔、めっちゃ好き)
特別好きな彼女の表情を見てしまったら益々彼女が欲しくて堪らなくなった。
もちろん好きなのは彼女の顔だけではないが。
その微笑みをいつも俺に見せて欲しい。一番近くで見られる距離にいつもいて欲しい。
(……ヤバい)
改めて彼女の存在が俺の中で大きくなっていることを実感すると折角決意した気持ちがグラグラと崩れそうになる。
もう何度も何度も……呆れるくらいに何度も考えて全てを告白すると決めたのに。
(全く……俺ってこんなに情けなかったか?)
以前付き合っていた彼女たちに同じように話すと決めた時には起きなかった緊張感。それが今、恐ろしいほどに俺の心を締め上げる。
それほどまでに彼女のことが特別なのだとまた思い知らされた──。
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