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キッチンから戻った彼女がお茶を淹れた湯飲みをテーブルに置いた。そして人ひとり分の間を空けて俺の隣に座った。
「お茶、どうぞ」
「うん、ありがとう」
それっきり、会話がプツリと途切れた。流れからいえば話があると言った俺が話し出すのが筋なのだろうがどうにも言い出し難かった。
(なんだ、どうした、こんな土壇場になって!)
心の中で盛大に急かすが、それとは裏腹に思った様に口は開かないし言葉も出て来ない。そんな俺を気にしながらも彼女は湯飲みを両手で持って息を吹いたりお茶を飲んだりしている。
なんとか話し出さなければ──と思っていると不意に彼女の心の声が聞こえた。
ハナシニクイコト ナノカシラ
(…!)
ドウキョヲ カイショウシタイトイウ ハナシダッタラ ドウシヨウ
(ちょ、そんなこと絶対言わねぇって!)
俺が話し出さないせいで彼女はどんどんネガティブな発言を繰り出していた。そしてとうとう
ワタシト イッショニイルノハ ツライカラ ハナレタイ トカ
そんな声を聞いた瞬間、居ても立っても居られなくなった。
「違う! そんなこと、全然思っていないから!」
「……え」
「………え」
彼女のキョトンとした顔とひと言に思わず俺も同じような言葉が漏れた。
(しまった!)
思わず彼女の心の声の方と会話をしてしまった。それほどまでに彼女は裏表が無さ過ぎた。
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