flavorsour 第一章

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「──自宅に着いたので此処までで結構です」 「此処? 何もないけど」 「この壁、家のです」 少し前から続いていた横の白い壁を触った。 「え、この壁、ずっと続いていたよ」 「だからこの壁の向こうはうちの敷地なんです」 「はぁー本当にお金持ちのお屋敷なんだね」 「ただ広いだけですけど」 「いやいや、ただ広いだけって、それ自慢に聞こえるよ」 「自慢じゃないです。広いと手入れだって大変なんですから」 「そういうのってお手伝いさんがやってくれるんでしょ?」 「うちにお手伝いさんなんていません。家事全般は母と祖母だけで賄っていますから」 「へぇ……」 私の言葉を訊いている彼が何を考えているのか分からない。ただ一刻も早くこの人から離れたいと思った。 「ではこれで失礼します。送ってくださってありがとうご──」 「連絡先教えてよ」 「──え」 とっとと去りたかった私の言葉を遮って榛名さんは携帯を取り出しながら言った。 「君の連絡先、教えて」 「なんですか、突然」 「突然でもないんだけど。ずっと訊きたいなって思っていたよ」 「連絡する用事もないのに教えません」 「え、ないの?」 「ありません」 (っていうか、何を考えているの?) どうでもいい女の連絡先を知りたいとはどういう意味なのか──?
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