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「榛名さん、今」
「……」
彼女が何を言いたいのか、訊きたいのか手に取るように分かる。分かるからこそ──
(腹を括れよ、俺!)
「あ、あのさ、俺、蘭ちゃんに話があるって言ったよね」
「! は、はい」
ようやく踏ん切りがつき話を始めた。そんな俺の様子に彼女は一旦口を噤み真っ直ぐに見つめた。
「色々話したいことがあるんだけど……一番最初に話しておかないといけないことは俺が好きなのは蘭ちゃんだってこと」
「……………は?」
俺の言葉を訊いて彼女は一拍置いて素っ頓狂な声を出した。それはそうなるだろうと思いながらも間髪入れずに続けた。
「伊志嶺くんの結婚式で一緒に受付をした時から気になっていて合コンで再会した時にはもうゾッコンだった」
「…………ゾッコン?」
「そう。好きで好きで堪らなかったから結婚前提で一緒に暮らし始めた。俺は蘭ちゃんと真剣に付き合って行きたいと思ったから──」
「っ、ちょっと待って!」
言葉を遮るように彼女は声を張った。
「いえ……あの、ちょっと待ってください! 榛名さんは……榛名さんはその……」
「俺、同性愛者じゃないから」
「!」
彼女が言い難そうだったから俺から言いたかったことを勝手に受けて返した。
「俺、恋愛対象は女の子だから」
「嘘!」
「嘘じゃないよ」
「だ……だって……榛名さんが好きなのは……本当に好きなのは──」
「伊志嶺くんじゃない」
「!!」
彼女の激しい動揺が見た目にも、心の声にも表れていて悪いことをしてしまったと自責の念に囚われた。
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