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来る罵りの襲撃に備え腹の底に力を入れて身構えていると──
「あぁぁぁぁぁ……恥ずかしい!」
「───へ」
「全部聞こえていただなんて……とっくに本性知られちゃっていたのに……なのに澄ました態度を取っていたなんて恥ずかし過ぎるぅぅぅ~~~」
「……」
(……何を……言っている、んだ?)
彼女から飛び出した言葉は俺の想像していたものとは全く違っていた。
『人の心が読めるなんて気持ち悪い!』なんて言葉が雨霰となって容赦なく降り注ぐものだと思っていた。現に今まではそうだったから。
それなのに彼女ときたら「もう……もうもう、恥ずかし過ぎて穴掘って埋まりたいぃぃぃぃ~~~」なんて嘆いている。
(……何、それ)
先刻から『恥ずかしい』を連発している彼女。先刻一瞬歪められた表情は羞恥からのものだったと知ったのは幾度も繰り返されるその言葉からだった。
(こんな展開、想像していなかった)
今までになかった反応をされて戸惑っている。だから何を言えばいいのか頭の中はすっかり真っ白になった。
だからなのか何故か彼女の真意──心の声が聞こえてこなかった。
俺が呆然として、彼女が恥ずかしいを連発してどのくらいが経っただろう。やがて両掌で顔を伏せていた彼女がゆるゆると顔を覗かせた。その顔は分かり易く真っ赤になっていた。
(あ……耳も真っ赤)
呆然としていた俺の目に飛び込んで来た羞恥に満ちた彼女の赤い顔と耳。今まで目にしたことのなかったそれらが妙に扇情的で瞬く間に正気に戻った。
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