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「本当に……救われたんだ」
「……」
「こんな変な能力、望んであるわけじゃない。欲しくてあるんじゃないのに……そのせいで嫌なものをたくさん見て、聞いて……嫌な思いもいっぱいして……気が狂いそうになったこともあった」
「……」
「だけど伊志嶺くんと出会ってから……彼の心は本当に清くて裏表がなくてすごく心地よかった。それに君だって」
「……」
「裏表があるって君は言うけど、俺にとってはその裏さえも小気味よかった」
「……」
「だから俺は君に救われたんだ」
「……」
不覚にも涙が出そうだった。鬱積していた気持ちを吐露する俺を彼女はジッと見つめている。その表情から彼女が今、どんな気持ちでいるのか窺い知れなかった。
(……読めない)
何故か先刻から彼女の本心が聞こえなくなった。だけどそんなもの、聞こえなくてもいい。今の俺はただ、彼女の口から紡がれる温度のある言葉が聞きたくて仕方がなかった。
彼女からの言葉を待っていると一旦放された彼女の温もりが再び体に宿った。
(え!)
先刻とは違って今度は彼女が俺の体を強く抱き締めていた。
「ら、蘭、ちゃん?」
「……ごめんなさい」
「え」
「ごめんなさい」
「あの……なんで君が謝ってるの」
「分からないですか?」
「……」
「私がどうして謝っているのか、分からないですか?」
「……」
(それってどういう意味だ?)
彼女の言っていることが分からずに困惑していた。『分からないですか』と二度繰り返したということは簡単には教えてもらえないのだろう。
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