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「どうして知って──」
「あっ」
「……そっか……私の考えていること、分かるんだった」
俺の言い訳を聞かずに彼女は自己完結した。拙いことを言ってしまったかと焦った気持ちが体にも反映しまったのか、先刻まで苦痛に歪んだ彼女の顔は平静になっていた。
「彼氏……付き合っていた人はいました」
彼女が口を開き俺が知りたかったことを語り出した。
「雰囲気や風貌が蓮に似た優しい人だったけれど……彼はどこか私に遠慮しているようなところがあって、付き合っているのに何処かよそよそしくて……そんな態度は体の関係にまで及びました」
彼女の口から『体の関係』という言葉が出た時、少し胸の奥がチクッとした。
「彼はそういう行為を中々しなくて……でも私はしたかった。だって好きな人とそういうことをするのって当たり前の衝動だと思っていたから」
「……」
「でも彼は違ったんです。恥ずかしかったけれど私の方から誘ってようやく体を重ねることが出来たのに……なのに彼は途中で逃げ出した」
「──え」
「私が彼で気持ちよくなっている様子を見て何故か辛そうな、苦しそうな顔をして言いました。『君のそんな姿、見たくなかった』って」
「!」
顔を歪めながら吐露した彼女の目は薄っすら潤んでいた。
(そうか──だから先刻)
其処で思い出した。俺が彼女を押し倒した時、彼女が途中で言葉を止めたことがあったのを。
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