flavorsour 第六章

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今思えば俺は随分余裕がなかったのだと思う。 今夜、彼女に秘密にしていたことを打ち明け、本当の気持ちを告白しようと決めていた。 彼女が俺を受け入れてくれてもくれなくてもある種記念に残るようにと外食に誘った。 友人に彼女を紹介したのだってこの時の彼女は確かに俺の隣にいたという記憶を俺以外の他人が覚えていてくれたらという気持ちからだった。 だけど彼女はあっさりと俺を受け入れてくれた。 俺が心を読んでいたことに対して一切の拒否も嫌悪感も抱かず、ただ『恥ずかしい』と言った彼女に対して今まで抑え込んでいた彼女への様々な思いが一気に溢れ出てしまった。 本当ならもっと言うべきことがあった。彼女に贈った白、赤、紫のアネモネのブーケの意味をきちんと伝えたかった。もっとも彼女はその意味を何となく感じ取っていたようだが。 アネモネの花言葉は【あなたを愛します】【儚い恋】 それに付随して白いアネモネの花言葉は【真実】【期待】 赤のアネモネの花言葉は【君を愛す】 紫のアネモネの花言葉は【あなたを信じて待つ】──その時の俺の気持ちが全て詰まった花言葉を持つアネモネに願いを込めて君に贈った。 そして彼女の慈悲深い気持ちによって救われた俺はもう彼女に対して隠さなくてもよくなった恋心を曝け出した途端、完全に抑えが利かなくなった。
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