flavorsour 第六章

36/40
前へ
/402ページ
次へ
──とても幸せだった 微睡む意識の中で温もりを感じ、其処に目をやるととても安らかな顔をして眠っている彼女がいた。 俺に寄り添い、微かな寝息を立てている彼女が堪らなく愛おしくて…… 欲しくて欲しくて堪らなかった彼女を俺のものに出来たという喜びで何故か泣きそうになった。 これから生きて行く中でこれほどの幸福を得られるとは思いもしなかった。そう思ってしまう発端となった忘れたくても忘れられない重く暗い過去の断片が突然フラッシュバックのようにいくつか頭の中に(よぎ)った。 なぜ今──? と畏怖のような感情が湧き出たが、寄り添う彼女の温もりでそれを抑え込んだ。 間違いなく俺は幸せだ。絶対に幸せになれる。 何度も何度もそう言い聞かせながら彼女を抱きしめて、その存在感に安堵してやがて眠りに落ちて行った──。 『……めん………だっ……から……』 (……え) 真っ暗闇の中に突如響いた声に意識が持って行かれた。 (なんだ……何が) 現状を把握出来ない俺は暗闇の中で必死に目を凝らした。だけどいつまで経っても何も見えない現状に恐らくこれは現実世界ではないのだろうと思えた。 つまり俺は今、夢を見ているのだ。その割には暗闇が広がっているだけの空間で何ひとつ面白くもない。何故こんな夢を見ているのか分からない。 せっかく彼女と結ばれた記念すべき夜だというのに何故こんな味気ない夢を見てしまっているのかと嘆息した。
/402ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1825人が本棚に入れています
本棚に追加