flavorsour 第六章

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母と父の凄惨な光景を目にした時、母が俺に語り掛けて来た。もうとっくに口から言葉を紡ぐことは出来なかったが俺の頭の中に直接語った言葉があった。 俺が人の心を読めるようになったのはあの時からだ。それは母が──母から与えられた能力(ちから)だった。 (どうして忘れていたんだ) そして何故今になってそのことを思い出したのか──それが不思議だった。 『それはあなたが真実の愛を手に入れたからよ』 「!?」 突然目の前に母の姿が現れた。驚いた俺は無意識に半歩ほど後退った。 「か……母、さん?」 『邦幸……辛い思いをさせてしまってごめんね』 「っ、ど、どうして……どうして」 色々訊きたいことがあった。知りたいことも沢山あるはずなのに何故か上手く言葉が出て来ない。 『今更なんでと思うでしょうね……お母さんを……わたしを恨んでいることも充分に分かっている』 「……」 『最後の最後……命が途切れる寸前……わたしの中に残っていた母親としての強い情が邦幸に入り込んだの』 「……え」 『邦幸にわたしのような失敗をして欲しくなくて……邦幸が真実の愛を見つけることが出来るようにと……わたしが手助けをしていたの』 「!!」 それは知らなかった真実だ。 つまり俺の人の心が読めるという能力(ちから)は母によってもたらされていた──ということらしい。 『真実の愛を手に入れた邦幸にわたしはもう必要ない』 「……だから突然蘭ちゃんの心が読めなくなった……のか」 全ての合点がいった。何もかもの真実が今、全て理解出来た。
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