flavorsour 第一章

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翌日、いつも通り出勤した。自分のデスクに着くなり声をかけて来たのは笹本さんだった。 「伊志嶺さん、おはよう」 「あ、おはようございます」 (相変わらず早いな) 笹本さんは意外と真面目だ。意外という言葉は不適切かもしれないけれど、いい意味で喋る内容と仕事に対する姿勢に若干のズレがある人だ。 出会った時から『早くいい男見つけて寿退社したい』が口癖の彼女は仕事を結婚するまでの腰掛け程度のものだと思っているのかと思えば、遅刻、無断欠勤はしない、業務中は真面目にきっちり作業している。 まぁ、社会人としては当たり前といえばそうなのだけれど。 「昨日はありがとうね。彼氏、怒っていなかった?」 「あ……えぇ、大丈夫です」 「よかったー。まぁ合コン行ったくらいで怒るような器の小さな男、伊志嶺さんが彼氏にしないよね~」 「……」 (あぁ……すっかり彼氏いる設定に埋もれて行く) 私の口から『彼氏います』と言ったことなど一度もないのだけれど周りはこの見た目だけで私という人間を勝手に設定づけて行く。 (仕方がないか。そういう生き方をして来たわけだし) 本来の性格がどうであれ、長年作り上げて来た伊志嶺蘭像は人生に大きな波風を立てて来なかった。
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