flavorsour 第一章

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偽りの伊志嶺蘭のおかげでそうなったきっかけでもある蓮に対する世間の風当たりも随分緩くなったわけだし。 (いいのよ、それで) 世間が認知する伊志嶺蘭は品行方正、才色兼備、秀外恵中──そんな理想の女性として存在し続けることで私の口から語られる蓮の人柄の良さはより一層真実味を帯びいい方向へと変わる。 それだけでも偽って来た甲斐があるというものだ。 「……」 だけどこの頃よく思ってしまう。蓮には私の代わりに守ってくれる女性が出来てしまった。 今はもう、花咲里が私の役目を引き継いでくれている。それはとても喜ばしいことだ。 ──喜ばしいこと……なのだけれど…… (じゃあ私、これからどうやって生きて行けばいいの?) 蓮のために偽って来た自分をこれからも続けなくてはいけないのか? これからとは一体いつまで──? ずっと? 死ぬまで? いや、死を迎える前に恋愛や結婚は? 一度くらい結婚はしてみたい。だけどこんな私と結婚してくれる人なんかいるのかな。巨大な猫を被り背負ったこんな私なんかと──…… (……止めよう) 一度考え始めたらキリがない。今は一旦思考に蓋をして始業開始を報せるチャイムを聞きながらPCを立ち上げた。
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