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勿論、愛想笑いなんかじゃなくて心から笑うことだってある。だけどそれを見せるのは家族以外誰もいない。
そんな私に対して彼は更に続けた。
「君のお兄さんはさ、見た目ああだけどすっごく表情豊かに笑うよ」
「!」
それを訊いた瞬間、心の中がざわめいた。
(なんで……そんなことを)
兄のことを能弁に語る彼を表向きは冷静さを装って見ていた。しかし心の中では(なんであなたがそんなことを言うの?!)と盛大に喚いていた。
私の兄は誤解され易い顔をしていた。私と双子だというのに全く似ていないことも相まって他人が下す私たちの評価はいつも正反対になされた。
そんな兄のことを彼は先刻からやたらと褒めちぎっていた。
(……)
今までこんな人に会ったことがなかった。いや、正確にいうと兄嫁の花咲里以外では初めてだ。
(ましてや蓮と知り合ってそんなに長くないだろうに)
会社の先輩ということは出会ってから精々二、三年ほどだろう。
そんな短い期間で兄のことをよく思う人が出現するとは思わなかった私は何故かその彼──榛名邦幸のことが無性に気になってしまったのだった。
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