flavorsour 第一章

30/52
前へ
/402ページ
次へ
気が付けば終業時間になっていた。午後からは数字の羅列と向き合っていたため若干の眼精疲労を感じた。 (あー……疲れた) 無意識に肩を回していると少し離れた処から「お先に失礼しまーす」と声が聞こえた。其方に視線をやると声の主は笹本さんだ。 (相変わらず早い) 見慣れた光景ではあるけれど本当に感心する。時間ピッタリに仕事を終わらせて退勤するなんて。 今日も川合さんとふたりで合コンに参加するのだろうか──なんて考えてしまう。 (合コンなのかどうかは分からないけれど何処かには行くんだろうな) というのも今日は金曜日だ。明日明後日と休みの週末なのだから笹本さんがこのまままっすぐ自宅に帰るわけがないだろうとつい想像してしまった。 (……) そんなことを考えて不意に遠い目になった。 (そうよ、こんな私でさえこの後、約束があるのだから) ぼんやりと頭に浮かぶのは昨夜のメールだった。 連絡先を交換したばかりの榛名さんから突然届いたメール。其処には【明日、ご飯食べに行かない?】とあった。 ここまでの流れを見るとまさに私の嫌いなタイプの男性そのものだ。見かけ通りのチャラい流れに思わずため息が出た。 しかし私は蓮と花咲里を守ると決めていた。大切なふたりの仲を引き裂こうとする輩がいるのならそれを排除しなければいけない。 というわけでそんな決意の元、彼からのメールの返事は【はい】とだけ返信した。
/402ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1808人が本棚に入れています
本棚に追加