flavorsour 第一章

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それを受けて榛名さんから時間と待ち合わせ場所が記されたメールが来てもう一度【分かりました】と返してやり取りは終わった。実に簡潔なものだ。 もっとも、要らないことを長々と書かれたメールをもらっても迷惑なだけだからこんな風に簡単なのはありがたかったけれど。 (蓮のことが好きな男性と食事……か) 恐らくあの小気味いい話術で私を懐柔し、蓮に対して何かしらのアクションを起こそうとしているに違いない。 (いや、させないからね!) 果たして恋愛経験が乏しい私が彼に飲まれないで何処まで突っぱねることが出来るのかは分からないけれど、絶対に榛名さんを応援することはない。それだけは確実に決まっている。 (──よし!) 掌を拳に変えて今一度気合を入れ直したのだった。 会社を出て地図アプリを開いて指定されたお店を探す。 前もって調べていた場所だったので全く知らないということはないけれど、念のためにもう一度確認のために画面を開いた。すると── 「蘭ちゃん」 「!」 私の名前を呼ぶ声がした。一瞬ドキッとしたけれど声がした方を見て別の意味でもう一度ドキッとした。 (な、なんで?!) 私に声をかけたのは紛れもなく今日の待ち合わせ相手である榛名さんだった。 「お仕事お疲れ様」 「ど、どうして榛名さんが此処に──」 「俺、出先から直帰だったの。時間があったから来ちゃった」 「……」 (『来ちゃった』じゃないわよ!) 会社近くで待ち伏せさせられたら知り合いに見られる可能性がある。もし万が一見られて要らぬ詮索などされたら堪ったものではない。
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