flavorsour 第一章

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榛名さんが案内してくれたのは創作和食のお店だった。 会社近くにこんなお店があったとは知らなかったけれど、外観や雰囲気は好みのものだった。 「いらっしゃいませぇ!」 榛名さんがお店の引き戸を開けると同時に店員さんの元気な声が聞こえた。 「予約していた榛名ですが」 「はい、19時からご予約の榛名様ですね。ご案内しまーす」 (え、予約?) 榛名さんと店員さんのやりとりに少し唖然とした。そんな私の様子に気が付いたのか榛名さんが「此処、個室があるんだよ。予約制なんだけど」と疑問に思っていたことをさらりと答えられてしまった。 (予約の個室?) 恐らく昨日、連絡を取り合った後に予約したのだろうと思うけれど、何故かその用意周到さに不信感を抱いた。 どうしてわざわざ個室なのだろうと。 まるで訊かれたくない話があるとか秘密にしたいことがあるとか重要な話をするとか──私にとって個室とはそういった意味合いが含まれる場所だ。 (やっぱり……そういう話をするわけなのね) そう悟った私は今一度お腹の底にグッと力を入れた。 案内された個室は縦長のこじんまりとした和室だった。部屋の中央に木製のテーブルが置かれ座椅子が四つ置かれていて、雰囲気的には合コンが行われた部屋と酷似していた。
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