flavorsour 第一章

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榛名さんが左奥の座椅子に座ったので私は向かい側の手前の方に座った。つまり互い違いの位置に座ったのだけれど── 「ねぇ、なんで其処に座るの」 「え?」 「普通向かい合うよね、こういう場合」 「……」 「ほら、此処」 そう言いながら彼は座っている席の前を指差した。 (はぁ……やっぱりそうなるか) 極力目を合わせたくない、真向いで座るのは嫌だなと思っていた思惑はあっけなく崩れ去った。 仕方がなく彼の真正面に座り直すと彼は満面の笑みを浮かべた。 (あー……その笑顔はちょっと好き、かも) 不意に見せた屈託のない笑顔が何故か目を引いた。飾らない、偽りのない笑顔だと思ったから。 (って、流されちゃいけない! 集中、集中~~~) 一瞬目をギュッと瞑り、カッと見開いた。 そして先手必勝宜しく「あの!」と声をかけると同時に『失礼しまーす』と個室の外から声がした。 「ご注文を承りまーす」 スラリと開いた襖から若い男性店員がにこにこしながら顔を覗かせた。 (タイミング悪っ!) 出鼻を挫かれた私はそそくさとテーブル脇に置かれていたメニュー表を手に取りなんとか恥ずかしさを誤魔化した。
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