flavorsour 第一章

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やがて注文した品が運ばれ私たちはお互いグラスを掲げていた。 「カンパーイ」 「……乾杯」 彼の音頭でカチンと合わさったグラス。 (って、何に対しての乾杯?)と思っていると「俺と蘭ちゃんの初めての食事会に」と、まるで考えていたことに対する返答のような言葉が出て驚いた。 (というかまた『蘭ちゃん』って) 何故か彼は私をちゃん付けで呼ぶ。私をそんな風に呼ぶ人は多くはない。──というか、ほぼいない。 私を『蘭ちゃん』なんて呼ぶのは精々母方の祖父くらいだ。 父方の祖母である澄子さんは『蘭様』と呼ぶし、両親や兄は呼び捨てだし、妹弟は『お姉ちゃん』とか『姉貴』だ。 今まで関わって来た友人知人たちはさん付けが多かった。『蘭ちゃん』なんて気さくに呼んでくれる人なんて──…… (……あぁ、そういえばチャラい男の人は呼んでいたっけ) すぐには思い出せなかったけれど今までにもちゃん付けで呼ぶ人はいたかもしれない。でもそれらは全て私にとってどうでもいいような人たちばかりだったと思わず遠い目をした。 「どうしたの?」 「──あ、いえ」 「ほら、食べよう。お腹空いたでしょ」 「……」 (確かにお腹は空いているけれど……) 目の前に並べられた美味しそうな食事を摂る前にどうしても訊きたかったことがある。 そこをはっきりさせないことにはこの人と呑気に食事なんて出来ない。
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