flavorsour 第一章

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「榛名さん、冗談でもそういうことを言わない方がいいですよ」 「冗談じゃないけど」 「からかっていますよね、私を」 「いや、なんで俺が君をからかうの」 「だって好きでもない女に結婚しようなんて言うのは冗談やからかい以外何があるっていうんですか」 「え、俺、蘭ちゃんのこと好きだけど」 「はぁ?!」 思わず私のイメージと大きくかけ離れたような抑揚の言葉が出てしまった。 (どの口が好きだなんていうか!) 私は全然、全く、忘れていなかった。彼が昨日、私に言った言葉を。 『そんなに警戒しなくてもいいよ。こんな見た目でも俺、好きでもない女の子を襲ったりしないから』 (って言っていたでしょうが!) それが僅か一日で結婚しようと言うまでになるとはどういうことか? (絶対何か裏がある!) そう確信した私は相変わらず「蘭ちゃんと結婚したい」を繰り返している彼をジッと見つめた。 「ん?」 私の辛辣な視線に言葉を紡ぐのを止めた彼が少し首を傾げた。 「榛名さん、いい加減本音を話しませんか」 「……」 「あなたが何故私に近づいたのか。私、薄々気が付いているんですけれど」 「……」 「あなたは私が蓮の妹だから近づいたんですよね」 「……」 「黙っているということは肯定と捉えますよ」 「……っふ」 彼が少し破顔して空気を吐き出すように笑った。 「何が可笑しいんですか」 「いや、よく分かっているなぁと思って」 「!」 「そうだよ。君が伊志嶺くんの妹だから近づいた。それは間違いないよ」 「……」 (やっぱり!) ここに来てようやく私の憶測が間違っていなかったことが彼の言葉によって証明された。
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