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「ねぇねぇ、伊志嶺さん」
「はい」
「今夜、合コンあるんだけど来てくれないかなぁ」
「合コン……ですか?」
「勿論、伊志嶺さんに変な虫が付かないようにちゃんと監視しているから。伊志嶺さんはただ其処にいてくれるだけでいいから」
「……」
「お願い!」
「……分かりました。参加させていただきます」
「やった! ありがとう、この恩はいつか返すから」
「そんなのいいですから」
「いやいや、本当感謝だよ。伊志嶺さんがいるだけでこっち側レベル高くみられるからね」
「……」
「じゃあ終業時間になったら誘いに来るから」
「はい」
そうして私はまたにっこりと心からの愛想笑いを見せた。
(……はぁ、家に遅くなるってメールしておかなきゃ)
心の中で盛大にため息をつきながら再び業務へと意識を向けた。
私は伊志嶺蘭、25歳。総合商社に勤める普通の会社員だ。
実家は建築業務を担う企業の創業者一族。父は会長、長兄は社長という典型的な世襲企業。しかし父の会社に就職したのは長兄のみで他の兄妹弟はそれぞれ別の会社に就職していた。
そんな家庭環境だったので私は幼少期からお嬢様と呼称される存在だった。
確かに実家は大きな屋敷でお金持ちだったけれど、両親共に質素倹約を良しとする庶民派だったので世間でイメージされる華やかな家族像とは随分かけ離れていた。
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