flavorsour 第一章

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(こういう場合、どうしたらいいんだろう) 初めて対峙した事案に戸惑い冷静な判断が出来ない。そんな若干混乱気味の私に彼はやんわりと話を続けた。 「好きだから──好きな人の幸せを壊すことはしたくない」 「……」 「だから俺はこれからも伊志嶺くんにとっていい先輩のひとりで居続けられたらいいなと思っている」 「……」 (この人は……) 思わず彼の姿に見惚れてしまった。好きだけれど、その人の幸せを願って身を引くと言っている彼。そこはかとなく漂う哀愁に何故か心惹かれて仕方がなかった。 本当は見かけと違っていい人なのだと薄っすらとした感動さえ覚えた。──が 「だから蘭ちゃん、結婚しよう」 「……」 「伊志嶺くんのことは諦める。いい先輩という立場に甘んじる。その代わり伊志嶺くんの妹である君と結婚したい」 「……」 「君は俺のこと、どう思っている?」 「~~~」 (前言撤回!この人、全然いい人なんかじゃない!) 要は蓮の代わりに双子の妹である私と結婚したいと言っているのだ。私のことが好きという言葉も、その前に『大好きな伊志嶺くんの妹である』が付くのだ。そのまんまの私個人が好きというわけではないのだ。 (あぁ、なるほど。合点がいった) 私のことは好きではないけれど蓮の妹──しかも双子の妹である私は彼にとってはある意味特別な存在らしい。
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