flavorsour 第一章

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でもこれが全て嘘だと私は知っている。 彼は蓮の代わりに私と結婚したいだけ。蓮との繋がりを持ち続けたいがために私と結婚して親戚に──義理の弟という地位を手にしたいだけなのだ。 (そうよ……分かっている) 彼の本心なんて手に取るように分かっているはずなのにどうして了承してしまったのだろう。 蓮の代わりだと分かっていても蓮と花咲里を守るためならばという思いから彼の申し出を受けたことは事実だ。 私が蓮と彼の間に入ってストッパー的な役割をしなくてはいけないと、そう思って彼の提案を受け入れた。 (でも結婚するなんて言っていないわよ!) 私はあくまでも結婚を前提とした付き合いならと言っただけ。それが何故か今、彼は両親に向かって結婚したいだの一緒に住みたいだのと雄弁に語っている。 (訳が分からない) この人が何を考えているのかなんて私に分かるはずがない。──ない……の、だけれど…… 「僕としては正式な結婚を前に蘭さんと一緒に暮らしてそれを実感してもらいたいのです。僕となら幸せになれると」 「……」 (なんだろう……不思議と) 彼の嘘だと分かっている数々の言葉だけれど、ずっと訊いていても不快な気持ちになっていないことにおかしさを覚えたのだった。
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