flavorsour 第一章

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そして数十分後、彼は難無く私と一緒に住む件を両親に認めさせてしまった。 「いやはや、娘可愛さで手元に置き過ぎたがためにそれが原因で縁遠くさせていたかもしれないと自覚した」 「ですね。それに一度くらいは親元を離れてきちんとやって行けるのか体験することも大切だと思います」 「……」 (あぁぁぁ……お父さん、お母さん!) 彼の巧みな話術によって両親はすっかり彼と暮らすこと──ひいては結婚を視野に入れることに対して(やぶさ)かではない感じになってしまっていた。 もっとも、ここでも発揮された【蓮の信頼度】。つまり蓮が親しく思っている人物というだけでこの榛名邦幸という男性は両親にとっては心象の良い人物として認定されたのだった。 「──完敗です」 「え、何が?」 両親との話し合いを終え、帰る彼を見送るために敷地内の門までやって来た私。 ふたりきりになったのを機に尚も本心を押し殺して話しかけた。 「あなたが蓮のためにここまでするとは思いませんでした」 「……」 「こんなことまでして蓮との関係を強固にしたいのですか」 「……」 「ただの先輩社員としての付き合いだけでは満足出来ないほどに……それほどまでにあなたは蓮のことを──」 「……」 「……」 (……言いたくない) 『好き』だの『愛している』だの、決定打となる言葉を口にするのが憚れた。
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