flavorsour 第一章

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榛名さんが実家の両親に挨拶しに来て一緒に住むことが決まってから一週間後の土曜日。 この日、私は生まれて初めての引っ越し作業なるものを体験中だ。 『本当に悪い。急に出勤になってしまって』 「そんなに気にしなくてもいいわよ。お父さんが手配した有能な業者の人たちが手際よくやってくれているから」 『そうか。頼れるところは大いに頼れ』 「えぇ」 私と榛名さんのことを知った蓮は最初こそ驚いていたけれど、それでも結局は『あの人はとてもいい人だ。俺が保証する』と予想通りのべた褒めをされた。 そして今日の引っ越し作業も手伝うと数日前から息巻いていたけれど突然休日出勤になったようで行くことが出来なくなったと連絡が来た。 『仕事が終わり次第顔を見せに行くから』 「無理しないで。花咲里が待っているでしょう?」 『花咲里も行きたいと言っている』 「そうなんだ」 蓮と花咲里が住むマンションからさほど遠くない位置にある引っ越し先のマンション。伊志嶺の持ちマンションなので全く知らない処ではないのがせめてもの救いだ。 「……はぁ」 蓮との通話を終えてから再び小物類を段ボールに詰め込み始めた。 生まれてからずっと住み続けて25年。慣れ親しんだ我が家を出て父が用意したマンションの一室へと移り住む。勿論、其処には榛名さんも一緒だ。 (……なんだか調子が悪い) 前夜、緊張のあまり充分な睡眠を取ることが出来なかった。眠ってもすぐに目が覚めて色々と考えていると益々眠れなくてついには頭が痛くなってしまった。
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