flavorsour 第一章

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(鎮痛剤、早く効かないかな) 数十分前に飲んだ薬が効くことを願って引っ越し作業を進めた。 ──とはいえ引っ越し自体は大変なものではなかった 主に私の部屋の家具以外の必要な物をそのまま移転先に運ぶだけだ。新しい部屋には既に父が揃えた真新しい家電や家具が一通り揃っていたから。 榛名さんは「自分の家の物を使うからいい」と最後まで遠慮していたけれど、父の「伊志嶺の娘を外に出すからにはこれぐらいのことをしなければ」という威圧感たっぷりの言葉に負けてしまった。 (昔からそうなのよね) 普段は無駄遣いを一切しない両親。物で幸福感を得る家族ではないので私も高級な物やブランド品には全く興味がなかった。 だけど必要なこと──例えば家族に関することにかけるお金には糸目をつけなかった。 だから今回の新居にかけるお金は相当な金額がかかっていると思われる。 (これも頭が痛い一因だわ) そこまでされたからにはすぐに同棲を解消するという事態を招くことには気が引ける。恐らく両親は同棲から結婚に繋がるのを見越しての引っ越しだ。それを私の一存で「止めました」とは言い辛い。 (色々と前途多難だな) まだ少し痛む頭を抱えながら深くため息をついた。
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