flavorsour 第二章

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次に気が付いた時、最初に目に入ったのは真っ白な天井。 知らない真っ白な空間。そして鼻につく消毒液のような独特の匂いだった。 「大丈夫?」 目を覚ました俺に声をかけた人も知らない人だった。後から知ったのだがその人は警察官だった。 「気分、悪くない? どこか痛いところはない?」 そう優しく声をかけてくれるが俺が訊きたかったのはそんな言葉じゃなかった。 お父さんとお母さんはどうなったの? ──その答えが欲しかった。 だけど俺の口から声は出ていなかった。懸命に訊きたいことを口から吐き出そうとするのにそれは声という形となって放出されることはなかった。 「恐らく解離性障害からの失語症でしょう」 「解離性障害……ですか」 「思考や感情などがまとまらず一時的に記憶や意識、知覚が解離してしまい自分が自分であるという感覚が失われてしまう状態のことです。邦幸くんの場合その原因はご両親の──」 警察官と医者と思しき人の会話をぼんやりと訊いている。 話の内容は俺には難しくてよく分からなかったが、要するに何らかの原因があって声が出せない状態にあるということだけ分かった。 突然声を失った俺はそれまでの日常さえも失ってしまったことにこの時はまだ気が付いていなかった。
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