flavorsour 第二章

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(というか、今の何?) 突然聞こえた声。恐らくあの警察官の声だったと思う。 (でもあれって……) 彼女の口から出た言葉ではなかった。りんごの皮を剥いている時の彼女は口を真一文字に閉じて必死にりんごと格闘していた。 だったらあの声は一体……──その瞬間、頭がズキンと痛んだ。 (痛っ) その衝撃で思い出した。これはあの時、最後に見た母の時と同じだということに。 (お母さん、喋っていなかったのに) あの時、母は既に言葉を発せられる状態ではなかった。なのに至極鮮明に母の声は頭の中に響いた。 そう、今のはその時と同じ状態だった。 それから不可解な現象は続くこととなった。 「邦幸くん、今日は少し散歩してみようか。寒いからうんと厚着して……そうだ、手袋もはめていこう」 「……」 ソトノ クウキヲスッタラ イイキブンテンカンニ ナルンジャナイカナ (やっぱりこれって) 少しずつこの不可解な現象のことが分かって来たような気がした。 直接頭に響いて来る言葉は相手が思っていること──つまり【本音】だということに。 この警察官の彼女の口から出る言葉と頭の中で聞こえる言葉は少し違っている。 (なんで俺、心の声──っていうか、考えていることが分かるようになったんだろう) 今までそんな奇妙なことに遭遇したことはなかった。初めて──あの時、初めて体験したのだ。
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