flavorsour 第二章

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(ということは……) ダカラ イッショニ シヌノ 母が最期に残したあの言葉は母の本心、本音だった。父のことが大好きだから一緒に死ぬと──母はそう最期に伝えたのだ。 (なんで、どうして) 好きだったらどうして一緒に死ぬの? 死ぬって何? どうして死ななきゃいけなかったんだよ! どうして俺ひとりを遺して──!! 「邦幸くん!」 「っ」 気が付けば俺の体は力強く抱きしめられていた。 「どうしたの、苦しいの? 痛いの?!」 「……」 「落ち着いて、ゆっくり深呼吸しよう」 「……」 過呼吸に陥っていたらしい俺を彼女が懸命に落ち着かせようとしていた。いつもならナースコールを押すなり医者を呼びに慌てて室内を出て行くだろう彼女が。 ドウシテ コンナニチイサナコガ コンナニクルシマナクッチャイケナイノ 決して声には出さない彼女の気持ち。それが俺の頭の中に優しい波動をもたらしてくれる。 (この人……いい人だな……) そんなことを思いながら彼女の温もりに触れていると次第に荒ぶった気持ちが凪いで来るのが分かった。 (……忘れよう) 一旦両親のことは忘れようと思った。あまりにも膨大な情報が流れ込んで来ると俺は壊れると、何故かそう思ってしまったから。 何故だか分からないが俺は無意識に自分自身を防御する術を持っていたようだ。 それが分かったのはもう少し経ってからのことだった。
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