flavorsour 第二章

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だから先手必勝とばかりに早々に別れを切り出した。 「はぁ? 別れるって……どういうこと?!」 「どういうことって、そのままの意味だけど」 案の定美咲は怒りを露わにした。それはそうだろう。つい昨夜までは俺たちの間には甘い雰囲気が漂っていた。 完璧な女性、体の相性もいい。一緒にいても疲れない。人生の伴侶として選ぶのは彼女なのかもしれない──そう思った瞬間、聞こえてしまった。 彼女の本音が。 気持ちが。 生々しく俺の頭の中に響いた。 (やっぱりそうか) 疑惑は確信に──どうやら俺は心を許した人間、好意や興味を持った相手の心のみが聞こえるようなのだ。 裏を返すと無関心で興味のない他人の心は聞こえない。 つまりこの特殊な能力の回避策は人に興味を抱かない、好きにならないということに尽きるのだ。 それはある意味簡単なことのようで実は案外難しい。特に好きになった女性の心が聞こえた瞬間、俺はいつも絶望感に駆られるからだ。 (あー……まぁ一生独身だって今の世の中変じゃないしそれなりに生きて行けるだろう) そうして俺は結婚──家族を作ることに対してすっかり無関心になってしまったのだった。
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