flavorsour 第二章

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その日は突然にやって来た。 週明けの月曜日、伊志嶺くんが休んだ。もっとも前日に休日出勤していたから代休という名の欠勤なのだが、彼の場合今まで代休に休んだことがなかった。『家にいてもやることないんで』なんて言って出勤して来るような仕事人間だった。 会社側から代休は休んでくださいだの、有給休暇消化してくださいなんて言われていても出勤するような男だった。 そんな彼がその日の代休は出社しなかった。 (何かあったのかな) 翌日の火曜日、不意にそんなことを思っていた俺に「おはようございます」と出勤して来た彼が声をかけた。 「あ、おはよう、伊志嶺くん」 「……」 顔を合わせた彼に対して何かよく分からない違和感を覚えた。 (あれ? なんか……) いつもとは違う──そんな漠然とした思いが心の中に湧いた。 一見しただけでは分からない。相変わらず不動の強面振りは健在だし、言葉もいつも通り必要最低限しか話さないし抑揚も変わらない。 なのに何故かいつもとは違うと思えて仕方がなかった。 (なんだ、どうしたんだ、伊志嶺くん!) ただの勘でしかないのだが、彼に何かが起こったことは間違いないと思ってしまった。 思ってしまったのだから──気になって仕方がなくて……そして俺はとうとう彼に対するある種のトリガーを解除してしまったのだ。
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