flavorsour 第二章

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それからも彼は謎の呪文をしばらく唱えていたが、やがてその呪文が結婚した女性の名前だったと分かるまでに話は進んでいた。 (へぇ、ずっと好きだった初恋の女の子……ねぇ) 俺の頭の中に流れ込んで来る彼の本音は甘酸っぱいピンクの靄がかかっているような柔らかなものだった。 (その外見と口下手から誤解されて……うんうん、分かるよ) 彼から流れ込んで来る相手の女性との結婚の経緯を知り、少しだけ申し訳ない気持ちになった。 まるで盗撮しているような、盗聴しているような、知ってはいけないことを知ってしまったというような罪悪感に駆られる。 だけどそれは俺自身の罪悪感でどうにかなるものでもなく、結局彼の身に起きた盛大な結婚に至るまでの一部始終を知ってしまった。 (ぐはっ…! な、なんだよ、これ) その壮大な恋愛模様と彼のあり得ない純情ぶりに口から大量の砂糖が吐き出されそうだった。 (甘い……甘過ぎるよ、伊志嶺くん!) 何度もいうが、その外見からは想像がつかないほどに彼はいい人だった。そんな彼の本音を覗いてしまった今、俺は人のいい彼の更なる付加価値となるであろう優しくて正直者で堅実な一途さを持った面を知り益々彼に対して興味を惹かれてしまったのだった。
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