flavorsour 第二章

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「双子の妹?」 「はい。蘭は──あ、蘭という名前なんですが、俺とは違って積極的で社交的で……その、兎に角とてもいい妹なんです」 「……」 (伊志嶺くんの妹、か) そんな話を訊いたのは伊志嶺くんが結婚式を挙げることになり、俺に受付業務をお願いしたいという話になってからだ。 今まで彼の心の言葉から妹というキーワードが出て来たことがなかったからそれを訊いた時は心底驚いた。 (というか、伊志嶺くんの頭の中は常に奥さんのことばかりだったからね) 彼の心の声が聞こえて来るのは会社にいる時だけだったので彼の本音の中の登場人物は奥さんのみだった。 奥さん以外の家族構成を知ったのはその時が初めてだった。 (へぇ……随分な大家族なんだ) 俺とは全く真逆の構成。しかも彼は家族のことが大好きらしい。 (……愛されて育って来たことがよく分かる) 彼の心の清廉潔白さは育って来た環境によるところが大きいのだろう。 そしてほんの一瞬──本当に一瞬だけそんな彼のことが…… (……妬ましい) なんて思ってしまい慌ててそのドス黒い感情を押し殺した。 自分が持っていない幸福を全て得ている彼に対して時々羨ましくもあり妬ましくもあり嫌悪感なんかも湧いてしまうことがあったけれど…… (それでも俺は君といると……) 時々夢を見てしまう時がある。
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