flavorsour 第二章

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(いやいや、それぐらい思っていないで直接声に出して言ってよ) そんな風に俺が思っても彼女はやっぱり完璧な笑みを浮かべて「どんな顔と言われてもこんな顔にしかなりませんけれど」なんて素っ気なく言い返した。 だけどその間に彼女は色々なことを考えている。家族以外に本当の笑顔を見せたことがないとか、それでも本当の笑顔は数える程度しかしたことがないとか (なんだよ、それ。そんなの哀しいじゃないか!) 彼女の思いをそのまま受け取った俺はつい言ってしまった。 「君のお兄さんはさ、見た目ああだけどすっごく表情豊かに笑うよ」 それを言った瞬間、彼女の心が凍り付いた。 (あ、もしかして禁句だったのか?) 一瞬焦ってしまったが、その後彼女が心の中で盛大に喚いていた本音を聞く限り俺は無事に彼女の心の中に印象深く痕跡を遺せたようだった。 彼女が心の中で俺の名前を呟いた。 ハルナ クニユキ それを感じた瞬間、俺の心の奥底に正体不明の塊がじんわりと生まれたような気がした。 (名前、口に出して呼んでよ) 突然強烈に感じた彼女に対して向けられた承認欲求。 俺のことを知って欲しい。 俺の傍にいて欲しい。 俺にだけは本当の君を曝け出して欲しい──と。 そして案の定、俺は面白いようにその日の内にドップリと彼女に溺れてしまったのだった。
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